三菱液晶プロジェクター取扱説明書のWeb化を行った結果をまとめた。
タスクの内容と結果
14名の学生を3つのグループに分け、それぞれに制作を進めた。その際、与えられたタスクは次のようなものである。
プロジェクターは使う人が限定されず、その操作に慣れていない人が使うことも多い。プロジェクターが設置されている場所に、取扱説明書が置かれることはまずない。一方でその場所にインターネット環境がある可能性は高くなっている。このような環境で、どうしても取扱説明書を見たいとき、それがWeb情報となっていれば便利である。
また、機器を製造販売する立場からすると、将来的に印刷物でなく、Web化された文書として取扱説明書をユーザに提供する可能性を検討したいという考えがある。
そこで、Web化取扱説明書を実際に制作し、提案する。
ここでWeb化というのは単にPDFファイルのWebサーバ上での公開は含まない。
印刷物になっている取扱説明書の8ページ以降の情報を入れる(索引は除く)。
全体の構成は、Webブラウザで見る文書であることを再認識した上、白紙から作り直すこと。
文章の全面的書き直しも本来であれば必要だが、本当にわかりにくいところ、「*ページを参照」とある部分にとどめる。
3つのグループの制作したWebマニュアルは次のリンク先においた(学内のみアクセス可)。
講評
- 3つのグループともframeを使ったナビゲーションを選択した。Webマニュアル制作の前には、Webページを評価するためのガイドラインについて議論し、Jakob Nielsen(1996)の記述などからframeの欠点についても理解した。にも関わらず、frameがマニュアルのナビゲーションには優位であると、どのグループも主張した。ただし、それは自分たちの使用経験を踏まえてのことで、明確な根拠はない。
Nielsen, "Why Frames Suck", <http://www.useit.com/alertbox/9612.html>, 1996
- 情報の再構成を期待したが、どのグループも印刷取扱説明書の構成に引きずられる形に終わった。グループごとに情報の構成について議論を行い、情報のかたまりの区切り方、提示の順序、繰り返される情報の扱いなどを検討し、それが各ページに反映されている。しかし、時間的な制約の中で、再構築をする勇気を持てず、小規模なものにとどまった。
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Aグループは、情報階層を印刷取扱説明書とは変え、メニューのタイトルをすべて「**をするには?」というスタイルにした点に特徴がある。わかりにくいと思われる言葉の詳しい説明のあるページにリンクが張られているが、リンク色が不明確である。また、言葉の説明などにテーブルを使っているが、テーブルの列間の間隔に調整が足らず、読みにくい結果になっている。
さらに、「**ページ参照」といった文章がページ上に残っているなど、作りこみに欠けている。
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Bグループは、左側のメニューの大項目をクリックするとその中の項目が展開するスタイルをとっている。しかし、別の大項目をクリックすると今まで展開していた項目が閉じるため、メニューの一覧性に欠ける。左側のフレームにスクロールが必要にならないようにそうしたということであるが、情報を隠すことになり、みにくい。
メニュー項目は印刷取扱説明書を踏襲しているが、項目タイトルに「ビデオ映像をみる2」のように数字を使っているため、具体的な内容がわからなくなっている。
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Cグループも、左側のメニューの展開についてはBグループと同様の方法をとっている。従って欠点も同じである。
本文中の言葉や項目について説明されている別の場所へのリンクを張り、Web文書の特徴を活かそうとしているが、リンク内容が適切かどうかの検討は不足していると感じる。また、一部リンクが切れている。
今後
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操作指向(電源を入れるといった個々の操作)かタスク指向(ビデオ映像を見るといった目的)か、どちらをナビゲーションの柱にするかで、情報の展開が大きく変わる。オリジナル印刷取扱説明書の基本的な流れは後者である。どちらが適切なのかについて、踏み込んだ検討はされていない。
今回制作したものはタスク指向であるが、操作指向スタイルでWebページを制作し、比較実験をしてみる。特定の情報を探すまでの時間を測定する実験を行うことで、どちらのスタイルが取扱説明書に適しているかについてのガイドラインが導かれるであろう。
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制作したものはframeを使用しているが、それは本当に有効なのか?
従来frameについてさまざまな問題点が指摘され、その使用をなるべく避ける方針が多かった。その問題もブラウザの進化に伴い、少なくなっている中で、純粋にframeが取扱説明書のナビゲーションに有効かどうかの検討を行うことは意味があろう。
frameを使わないページを作り、使い勝手の比較実験を行うことで、取扱説明書でのframeによるナビゲーションの有効性についての何らかの結論が得られると考える。
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来年度もデータの使用が許されるならば、これらの実験用Webページの制作と実験を、来年度の2年生のゼミで実施したいと考えている。